2010年12月14日
砂防学会 講演要旨
田畑 茂清

1. 砂防学会誌にもあるとおり、世代間の災害経談が変わってきており、従ってこの鋼製透過型えん堤についても時期によって変化していることを知るべき。

2. 鋼製透過型えん堤が出現する前に、土石流などの土砂移動に関する調査・研究があったことを忘れるべきでない。

「山津波」とも言われてきた昭和40年代はじめ、建設省は「土石流危険箇所調査」を開始。山梨県西湖足和田災害(昭和41年)では、本格的な土砂移動実態調査を実施、災害復旧対策に利用した。

3. 土石流を実際この目で見たい、映像に残したい、測ってみたいという時代の風潮であり、土木研究所などでは水路で土石流を発生・流下させる試みが盛んに行われた。

昭和44年常願寺川上流立山カルデラ内での土砂災害発生直後の現地調査中、六九谷土石流を決死のビデオ撮影により映像化に成功。松本砂防上高地及び姫川水系浦川上流において、京大・名古屋大の協力を得て大々的に観測施設を設置、映像化・測定を断続的に実施可能とした。

4. この可視映像を参考に、「土石流は水と石礫を分離させれば止まるはず」と考え、松本砂防では現地に鋼製による透過型の施設を考案設置した。

この考えを許してくれたのは、「従来のコンクリート砂防構造物では土石流は止まらない」と考えていた方々が建設省砂防職に居たからである。

5. それまでも鋼製による治山施設は林野庁で盛んに作られていたが、土石流を対象に考えられたものではなかった。

松本砂防では、浦川に新日鉄によるA型、上高地に神戸製鋼によるワイヤーネット型を考案して、未知の世界で鋼材間隔や鋼構造、構造計算を実施・施工したが、いずれも土石流により破壊した。

6. このような経験を踏まえて、型は多少異なるが、現在の鋼製透過型えん堤が神戸製鋼により考案・作製された。

これは、上高地の土石流観測を指導された京大奥田節夫教授のアイデアが大きく生かされ、かつ寺田寅彦博士の「満員電車の入り口に乗客が殺到すれば少数しか乗れない」という論理に裏打ちされ、水山先生が土木研究所に入省、水理模型実験により実証したものである。

そして、現在の砂防部長牧野さんが新庄工事事務所の係長として我国最初の鋼製透過型砂防えん堤として自ら設計・施工され、現在も効果を充分発揮している。

7. 鋼製えん堤が注目されたのは、昭和50年代半ばの鉄鋼不況ある。

「日本の景気を落とすな」の掛け声で、道路は鋼橋を河川は水門・ゲートを優先発注した際、鉄のメニューとして砂防は鋼製透過型えん堤を持ち出した。

• 「鋼製砂防ダム設置計画」を作成し、砂防えん堤の半分は鋼製をと唱えたが思うように広がらなかった。その理由は、透過する施設で「本当に流れてくる土砂を止められるのか」という根強い意見が、砂防関係者に在り、この考えはずっと続いている。

• この時期桜島の直轄化に伴い、コンクリート砂防えん堤では土石流の流下を止めることが出来ないという理由で、鉄レールをすのこ状に並べて「すのこえん堤」なるものも考案・作製されている。

8. その後、環境の時代といわれる時期に入り、コンクリートえん堤に比べて渓流環境の保護等に鋼製透過型えん堤が適していると言われるようになった。

・当時「渓流」という釣り雑誌やダム反対論者にお褒めの言葉をいただいたし、流木に対して効果を発揮し、流木対策には鋼製透過型がよいと言われるようになった。

• この時代、従来型の砂防ダムを鉄で前面囲ったり、鋼製枠を積んだ型のものも出現したが、私には邪道に思われる。

9. 鋼製透過型えん堤が徐々にではあるが増えるにつれて、砂防計画論上の位置づけが議輪されるようになってきた。それまでの土砂かん止の考え方では説明出来ず、普及が遅れているのが現状である。

• 1つは「土石流を止める」こと。
しかし、文字通り透過型ゆえに、あるいは透過型で本当に止まるのかという疑念ゆえに災害直後の緊急砂防事業などは採用されにくいという現実がある。(補助土石流対応型)

• もう1つは、下流河川への適度な細砂を流すという評価が大きいゆえ、総合土砂計画にもっと使うべきであるという意見も大きくなってきつつある。(直轄水系砂防型)

10. 今後鋼製透過型えん堤が主流になるか否かは、次のような項目をはっきりしていくことが大切である。言い換えれば、鋼製透過型の生命線と言っていい課題である。

①現在間隔をどんどん狭くして、極端に言えば1つの石礫も流さないとする傾向にあるが、これでは限りなくコンクリートえん堤の除石をやればよいという論理に近づく。土石流に対しては、細砂の渓流でも大礫の流下を防止する工夫が大切であるとともに、水系全体の土砂管理の面からの適度な流砂を必要とする間隔も忘れるべきでない。

②行政側が土石流対策指針を改定していく度に、鋼製透過型えん堤は新しい認定型であることを公に証明していく手続きが必要であり、この際従来型のものは一括砂防地すべりセンターの認証をとることをルール化すべき。
今回の土石流対策指針の改定の主たる点は、リダンダンシーによる評価が重要であるが故に、国交省の見解を重視して再認証の技術的手続きを行うことが肝要である。

③鋼製透過型えん堤は住民の安全を守る基幹的施設であるが故に、えん堤に使う材料や部品のもつ品質保障及び施工時から完成に至るまでの一貫した品質管理に加えて施工管理もおろそかにしてはいけない。
従って、製造工場と一体となった責任ある品質管理体制や鋼材やボルトに至るまでの使用方法等の基本的な基準の遵守、施工時の管理基準値等は認定の際に充分検討すること。

そして、新しいタイプはまず暫定認定とし、現地施工・設置後の土石流等を経験・検証した後認定に至ることとし、その際に学会等に被災調査委員会を設置して施工等に関する学識経験者を参加させるシステムを作って意見を聞くのがよい。

④ただ、透過型というだけで1つにまとめて価格比較するという現在の風潮(流れ)は、施工の安全性・住民の安全性という本来の目的を希薄にする恐れがある。

従来、鋼製はコンクリートえん堤と比べての価格比較であったことを念頭に、各タイプは上記に述べてきた効果・安全性・現地適用性等を比較検討していくことが本来意図していたことである。

11. 建設省入省(昭和41年)以来、土木研究所、北陸地建松本砂防工事事務所、技術管理課、国土庁防災局、砂防部補佐・専門官と一貫して鋼製砂防構造物に関ってきた一人の技術者として述べさせてもらった内容は以上の通りである。

いわば私の遺言でもあり、諸兄の頭の隅に入れてもらって、今後の事業推進の参考にしていただきたい。